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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)159号 判決

原告 学校法人大阪電気通信大学 外三二名

被告 私立学校教職員共済組合 私立学校教職員共済組合審査会

主文

1  本件訴えのうち被告私立学校教職員共済組合に対する主位的請求及び予備的請求に関する部分を却下する。

2  原告学校法人大阪電気通信大学を除くその余の原告らの被告私立学校教職員共済組合審査会に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(以下、原告学校法人大阪電機通信大学を「原告大学」と、原告大学以外の原告らを「その余の原告ら」と被告私立学校教職員共済組合を「被告組合」と、被告私立学校教職員共済組合審査会を「被告審査会」とそれぞれ略称する。)

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(被告組合に対する主位的請求)

1 原告らの昭和四九年一二月一一日付組合員資格取得年月日訂正確認申出に対し被告組合が同五〇年一一月六日付をもつてした右訂正確認申出を拒否する旨の処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告組合の負担とする。

(被告組合に対する予備的請求)

1 被告組合との間においてその余の原告らの組合員資格取得年月日が別表一の採用年月日欄記載のとおりであることを確認する。

2 訴訟費用は被告組合の負担とする。

(被告審査会に対する請求)

1 その余の原告らが昭和五一年一月九日した審査請求に対し被告審査会が同年八月一〇日付をもつてした右請求を却下する旨の裁決を取り消す。

2 訴訟費用は被告審査会の負担とする。

二  被告ら

(被告組合)

1 本案前の答弁

主文1項と同旨

2 本案の答弁

(一) 原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告審査会)

主文2、3項と同旨

第二原告らの請求原因

一  被告組合に対する主位的請求原因及び同審査会に対する請求原因

1  原告大学は、私立学校法及び学校教育法に基づき教育事業を行なうことを目的とする学校法人であり、その余の原告らは、原告大学に使用され、現に同大学の教職員等であり、又は教職員等であつた者である。

2  その余の原告らは、昭和四九年一二月一一日付で原告大学を通じて被告組合に対し、右原告らの資格取得年月日を別表一の採用年月日欄記載のとおりに訂正する旨の確認を求める申出(以下「本件各申出」という。)をしたところ、被告組合は、同五〇年一一月六日付の「組合員資格取得年月日の訂正について(回答)」と題する書面をもつて本件各申出を拒否する旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。

3  その余の原告らは、本件通知を不服とし、被告審査会に対し、昭和五一年一月九日審査請求をしたところ、被告審査会は、同年八月一〇日付をもつて、本件通知は行政処分ではないとして右請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

4  しかし、本件通知及び裁決は、次のとおり違法である。

(一) その余の原告らは、別表一の採用年月日欄記載の日から原告大学に使用され、同大学の常勤又は専任の教職員等となつた者である。

(二) ところが、その余の原告らは、被告組合から右別表の資格取得年月日欄記載の日にそれぞれ被告組合の組合員資格を取得したものとして確認されている。

(三) しかし、私立学校教職員共済組合法(昭和二八年法律第二四五号、以下「法」という。)第一四条及び第一五条によれば、学校法人等に使用される常勤又は専任の教職員等は、教職員等となつた日から被告組合の組合員たる資格を取得する旨規定されているから、その余の原告らは、前記採用年月日欄記載の日から組合員たる資格を取得したものである。そして、前記の各規定からすると、教職員等の実際の採用年月日と被告組合から確認された資格取得年月日とが相違しているときは、被告組合に対し実際の採用年月日に訂正することを求める申出権が組合員に生じ、被告組合はこれに応じて訂正すべき法的義務を負うものと解されるから、その余の原告らの右申出権に基づく本件各申出に対し、被告組合がしたこれを拒否する旨の本件通知は違法である。

5  よつて、本件通知及びこれに対する審査請求を却下した本件裁決は違法であるからその取消しを求める。

二  被告組合に対する予備的請求原因

1  その余の原告らは、前項4の(一)記載のように別表一の採用年月日欄記載の日に被告組合の組合員資格を取得しているのに、被告組合は右原告らの組合員資格取得年月日を右表の資格取得年月日欄記載のとおりであると主張してこれを争つている。

2  よつて、その余の原告らは、被告組合に対し、その余の原告らが別表一の採用年月日欄記載の日にそれぞれ被告組合の組合員資格を取得したことの確認を求める。

第三被告組合の本案前の主張

一  本件通知は行政処分ではない。すなわち、

1  組合員の資格取得の法律関係は次のようになつている。

(一) まず、資格取得の手続についてみると、学校法人等は、教職員等を新たに就職させたときは、一〇日以内に資格取得年月日を記載した資格取得報告書を被告組合に届け出なければならない(法第四七条第一項、私立学校教職員共済組合法施行規則(以下「規則」という。)第一条第一項第一号)。右の届出に対し、被告組合は、これを確認し、資格取得の確認通知書を学校法人等に送付するとともに、右学校法人等を通じて組合員証を組合員に交付する(私立学校教職員共済組合業務方法書第九条、昭和二八年一二月二八日文部大臣認可雑管第六四三号、規則第一条の四、昭和三七年一月一日施行)。そして、右資格取得報告書、資格取得確認通知書及び組合員証にはいずれも当該組合員の資格取得年月日が記載されているのである。

(二) ところで、被告組合のする資格取得の確認の法的性格は、次のように解すべきである。すなわち、被告組合の組合員たる資格取得の法律関係は、法第一四条及び第一五条に該当する事実が発生したときに当然生ずるものであるが、右法律関係は、未だ潜在的な法律関係であり、保険者と被保険者並びに事業主との間の保険給付の支給並びに保険料の徴収及び支払いという具体的な法律関係を発生させるためには、被告組合の行なう確認という行為により公にその法律関係の存否を確定せしめることが必要であり、このことは、社会保険一般の通則である(健康保険法第二一条ノ二、厚生年金保険法第一八条、船員保険法第一九条ノ二、農林漁業団体職員共済組合法第一六条第二項)。従つて、被告組合の行なう資格取得の確認は、潜在的な法律関係を具体化させる行政処分と解される。この点につき、法は明文の規定を欠くが、法第三六条が組合員の資格に関する決定につき行政不服審査法による審査請求を認めていることからしても、法は、被告組合が行なう確認の行政処分性を当然の前提としているものと解すべきであるし、仮に、そうでないとしても、前記の健康保険法や厚生年金保険法等の社会保険立法における確認の規定が準用ないし類推適用されるべきものである。

(三) そうすると、法は、被告組合のした資格取得確認処分に対し、資格取得年月日に誤りがある等の理由により不服があるときは、被告審査会に対し審査請求をし、さらに不服の場合には行政訴訟を提起してその是正を図ることを予定しているものと解すべきことになるから、原告ら主張のような組合員資格取得年月日訂正申出権なるものは存在しない。

(四) 以上の関係を原告らについてみると、その余の原告らにつき別表一の資格取得年月日欄記載の日付ころ原告大学から右年月日を記載した資格取得報告書が被告組合に届け出られ、そのころ被告組合がこれらを確認したうえ、それぞれ資格取得年月日を記載した資格取得の確認通知書を原告大学に送付するとともに、右年月日が記載してある組合員証をその余の原告らにそれぞれ交付したのであるから、右原告らは、右の当時、資格取得確認処分を知つていたものであるのに審査請求をしたことはない。

2  被告組合がした本件通知は、資格取得年月日の訂正を考慮することができない旨を単に通知したものであり、従つて、行政処分ではない。すなわち、被告組合は、原告大学を通じてされたその余の原告らの組合員資格取得年月日の訂正申し入れに応じなかつたが、これはその余の原告らの右取得年月日について、既に前項(四)記載のように確認した資格取得確認処分を再確認したにとどまるもので、原告ら主張のようにその余の原告らの組合員資格につき新たな行政処分をしたものではない。

3  よつて、原告らの本件訴えのうち本件通知を行政処分であるとしてその取消しを求める請求に関する部分は不適法である。

二  原告らの予備的請求は確認の利益を欠く。すなわち、

1  確認訴訟における確認の利益は、原則として現在の権利又は法律関係の存否を目的とするものに限り認められるべきものであり、過去の法律関係の存否につき確認の利益が認められるべき場合については、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的な解決をもたらさず、かえつて、これらの権利又は法律関係の基本となる法律関係を確定することが紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合に限つて例外的に許容されるべきものと解される。

2  これを本件予備的請求に関する訴えについてみるに、原告らが確認を求める事項は、結局、その余の原告らがいつ被告組合の組合員になつたかということであり、単なる過去の事実の存否の確認を求めるものである。

そして、被告組合と原告らとの間には、現在その余の原告ら(但し、後記のように既に組合員資格を喪失した者を除く。)が被告組合の組合員であることには争いがなく、その他右原告ら資格取得時期を前提とする権利又は法律関係についての紛争は存在しない。

原告らは、後記第四(反論)二の1のように、資格取得時期は保険給付債権に影響する旨主張するが、右給付債権は未だ発生しておらず、未確定のものであるし、組合員期間は、給付の種類及び額等が決定される際の一要素、すなわち未発生の保険給付債権の要件事実にすぎないのであるから、現時点で右資格取得の時期を確定する利益は存しないものといわねばならない。

また、法第三六条は、給付の決定に対して審査請求の途を定めているし、さらに給付決定取消しの行政訴訟ないし給付訴訟等を提起することにより、直接かつ適切抜本的な解決を図り得るものであるから、この点からしても確認の利益はない。

3  原告らのうち、別表二記載の者は、組合員資格を喪失し、被告組合に対し給付事由が発生したとして給付請求を行ない、これに対し被告組合は右別表記載のとおり給付決定をしているところ、これらの者は右給付決定に対し異議を述べることなく給付を受け、または現に受けており、既に給付決定に対する取消訴訟の出訴期間を徒過したものであるから、右給付決定は確定し、変更し得ないものとなつたのである。従つて、右原告らの給付請求権に不利益を生ずることを理由とする予備的請求は確認の利益を欠くものである。

第四本案前の主張に対する原告らの認否及び反論

(認否)

一1  本案前の主張一の1のうち、(一)は認めるが(二)及び(三)は争う。

2  同一の2及び3は争う。

二1  同二の2のうち、被告組合との間で、既に資格を喪失している原告以外のその余の原告らが現在組合員であることに争いがないとの点は認め、その余は争う。

2  同二の3のうち、別表二記載の原告らが組合員資格を喪失し、同原告らにつき給付決定がされたことは認めるが、その余は争う。

(反論)

一  私立学校教職員共済組合関係は、教職員等が強制適用事業の対象である学校法人に常勤かつ専任として使用されることによつて当然に発生し、当該教職員等になつた日から組合員たる資格を取得するものであることは、法第一四、一五条の明言するところである。そして、被告組合が行なう組合員資格取得の通知は、学校法人の届出に係る資格取得の事実を承認する意思表示であり、これによつて共済組合関係を形成し、組合員資格を創設するものではない。このような共済組合関係の基本的性格及び組合員資格の取得要件からすれば、学校法人又は組合員は、右届出、承認に係る資格取得年月日が真実の資格取得年月日と相違しているときは、訂正の申出権を有するものと解され、かかる訂正の申出に対し、被告組合は、許否いずれかの決定をすべき義務を負うものと解される。

このことは、被告組合が学校法人の申入れにより資格取得年月日の訂正をした事実があり、また、右組合発行の私学共済事務に関する手引書中にも資格取得年月日の訂正申出に関する記載が存することからも明らかであり、右申出に対し被告組合のした許否の決定は、法第三六条第一項が定める「組合員の資格に関する決定」として行政処分に当たるものである。

また、健康保険法第二一条ノ二第二項や厚生年金保険法第三一条は、資格取得確認を得た後であつても、被保険者又は被保険者であつた者はいつでも右資格取得の確認を請求することができる旨を規定しているところ、この確認の請求に対し、保険者又は都道府県知事は、応答すべき義務を負つているところ、原告らが主張する訂正の申出は右各保険法にいう確認の請求に当たるものであり、これは明文の有無にかかわらず社会保険の通則上当然認められるべき性格のものである。

二1  被告組合は、原告らの予備的請求は確認の利益を欠くと主張する。しかし、法の定める共済給付には保健給付、休業給付、災害給付等の短期給付と退職給付、廃疾給付、遺族給付などの長期給付があるところ、短期給付については組合員期間の長短に係わりなく組合員資格を有していれば足りるが、長期給付ことに退職給付については組合員資格を有する年数によつて給付額ばかりか給付内容が異なつている。

すなわち、退職給付のうち、退職年金は、組合員期間が二〇年以上である組合員が退職したとき、その者が死亡するまで年金として支給されるものであり(法第二五条によつて準用される国家公務員共済組合法第七六条)、退職一時金は、組合員期間が一年以上二〇年未満の者が退職したとき一時金が支給されるものである(同法第八〇条)。

また、通算退職年金は、被告組合の組合員期間が一年以上二〇年未満の組合員が退職し、国民年金や同年金以外の公的年金制度の通算対象期間を合算した期間が二五年以上または二〇年以上であるときに、その組合員が死亡するまで支給されるものである(同法第七九条の二、通算年金通則法参照)。

そして、退職年金の額は、一定の基礎割合額を基準として、組合員資格が二〇年をこえる一年につき、平均標準給与年額に一・五%を乗じた額が加算され(国家公務員共済組合法第七六条第二項)、退職一時金の額は、一定の基礎割合額に対して、一年以上二〇年未満の組合員期間に応じて平均標準給与日額の二〇日分から五一五日分までを乗じた金額が支給の基準とされている(同法第八〇条第二項第一号、同法別表第二、参照)。

右の退職給付のほか、廃疾給付や遺族給付などの長期給付についても、組合員期間が二〇年以上であるか、二〇年未満であるかなどによつて差異が生じることになつている。

以上のようにその余の原告らは、自己の組合員資格の期間について重大な法律上の利害関係を有していることになる。

その場合、右原告らが訴え提起時、または口頭弁論終結時に有している可変的な組合員資格期間の確認を求めることは、形式的に過ぎ、原告らと被告組合間における紛争の抜本的な解決をもたらすゆえんではないと考えられる。従つて、仮に予備的請求の趣旨が過去の法律関係の確認に当たるとしても、それは原告らと被告組合間における権利関係の基礎にある過去の基本的な法律関係の確定であり、現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため、最も適切かつ必要な場合に該当し、確認の利益が認められるべきである。

本件においては、その余の原告らが退職給付の請求権を取得した時点で、退職年金額または退職一時金額等給付額の差額支払いを求める訴訟形態も考えられるが、これら長期給付の支給事由が発生する時期が不確定であるうえ、長期給付等の発生が問題となるのは、相当の長期間を経過した後であることが通例である。

そして、当該事由が発生し、具体的な給付額を求める請求権を取得した時点において、過去の資格取得時期などの事実関係を確定することはますます困難であるのみならず、遡及掛金相当額の取扱いなど被告組合らが指摘する事務処理上の不都合が倍加することになる。

また、前記のとおり組合員期間の長短によつて、その内容や給付額が影響を受ける長期給付は、退職給付以外にも存在する。

さらに、組合員の資格取得時期があらかじめ訂正、確定されておれば、長期給付の給付事由が発生したときは、法律の定めるところにより、当然に給付事由に応じた長期給付の内容が特定し、給付額が算定されることになる。

従つて、長期給付等をめぐる組合員と被告組合間の将来の紛争を予防するために、基本的な実体関係である組合員資格の取得時期自体の確認を求めることは、法理論上当然許されるものと解される。

けだし、基本関係から派生する可能性のある他の諸紛争を予防するという確認訴訟本来の機能は、何ら害されることなく、その要件を満たしているからである。

2  被告組合は、その余の原告らのうち、別表二に記載の組合員資格喪失者についてはそれぞれ給付決定がされているのであるから、右給付決定を争えば足り、確認の利益はない旨主張するが、別表二記載の原告らは、いずれも給付事由が発生する以前に被告組合あて資格取得年月日の訂正確認を求める申出をし、さらに被告審査会に対し審査請求をしたうえ本訴を提起しこれを維持しているのであるから、長期給付を受けたからといつて原告らの主張を放棄したものではなく、確認の利益を欠くものではない。

第五請求原因に対する認否(被告ら)

一1  請求原因一の1ないし3は認める。

2  同一の4のうち、(一)は争い、(二)は認める。(三)のうち法第一四、一五条の規定内容に関する部分は認めるが、その余の主張及び同一の5は争う。

二  請求原因二の1のうち、被告組合がその余の原告らの組合員資格取得年月日を別表一の資格取得年月日欄記載のとおり主張していることは認めるが、その余の主張及び同2の主張は争う。

第六被告らの主張

一  被告審査会の主張は、被告組合の本案前の主張一の1及び2と同一であるからこれを援用する。

二  被告組合の原告らの予備的請求に対する主張

仮に、その余の原告らが別表一の採用年月日欄記載の日に組合員資格を取得していたとしても、原告らの右予備的請求は、信義則に反し、権利の乱用である。被告組合は、私立学校の教職員等の相互扶助事業を行ないその福利厚生を図り、もつて私立学校教育の振興に資することを目的とする特殊法人であり、組合員に対する給付事業及び福利厚生事業を行ない、その財源は主として組合員及び学校法人から支払われる掛金の効率的運用によつて維持されている。原告らはそれぞれ資格取得確認通知書ないし組合員証の交付を受けてその資格取得年月日を知りながら、被告審査会に対し審査請求をすることなく、この間掛金の支払いを免れ(掛金徴収権の消滅時効期間は二年である。)、相当年数経過後に至つて資格取得年月日の訂正を求め、その訂正により被告組合から退職給付等に際して利益を得ようとしている。しかし、このような行為は組合員の掛金による相互扶助事業の目的に反するものであり、このような行為が認められるときは掛金を支払つてきた他の組合員に対して著しく不公平な結果をもたらすばかりか、共済事業を破綻させる結果を招来するものである。従つて、原告らの前記予備的請求は信義則に反し、権利の乱用である。

第七被告らの主張に対する認否及び反論

一  被告審査会の主張に対するその余の原告らの認否は、被告組合の本案前の主張に対する原告らの認否と同一であるからこれを援用する。

二  被告組合の主張のうち、原告らの予備的請求が信義則に反し、権利の乱用であるとの主張は争う。

原告らは、昭和四九年一二月一一日付で本件各申出を被告組合に対して行なつて以来、被告組合の指示及び指導に従つてきたところ、被告組合は、原告らの本件各申出に対し、相当期間経過後に何ら実質的な理由を明らかにすることなく、形式的理由のもとに一括して拒否したものである。また、掛金徴収権の消滅時効期間が二年であることは、被告組合のいうとおりであるが、被告組合においては、組合員期間を二年以上遡及する場合を想定して学校法人に対し掛金相当額に一定の利息を加算した金額を補てん金として納付させる取扱いを定めているところ、原告らは、右取扱いに従い、補てん金納付誓約書を被告組合に差し入れているものであるから、被告組合に損害を与えたり、その財政を破綻させるものではなく、従つて、被告組合の信義則違反ないし権利乱用の主張は失当である。

第八証拠〈省略〉

理由

一  請求原因一の1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件通知の行政処分性について

1  原告らは、本件通知は行政処分であると主張するので以下検討する。

(一)  まず、私立学校教職員共済組合における組合員資格取得の法律関係についてみるに、法は第四章に組合員に関する四箇条の規定を定めているところ、その第一四条において、私立学校教職員共済組合の組合員を私立学校法第三条に定める学校法人、同法第六四条第四項の法人又は組合に使用される者で学校法人等から給与を受けるもの(ただし、専任でない者、臨時に使用される者及び右以外で常時勤務に服しない者を除く。以下「教職員等」という。)と定め、強制加入主義を採用することを明らかにし、組合員資格の取得については法第一五条において、右の組合員対象者が教職員等となつた日から組合員たる資格を取得するものとし、その喪失については、法第一六条が組合員が死亡したとき、退職したとき等の同条所定の事由に該当するに至つたときはその翌日から組合員たる資格を喪失するものとそれぞれ規定している。

ところで、法はその第一条に定める「私立学校教職員の相互扶助事業を行い、その権利厚生を図る」ために、組合員に対し法所定の給付事由が生じた場合に各種給付の受給権を付与する(法第一八条、第二五条)一方、その財源を確保するため組合員に対し、掛金負担義務(法第二八条)及び学校法人等が右掛金を納付するために掛金相当額を組合員の給与等から控除することを受忍すべき義務(法第二九条第二項)等を課すことを定めているが、これらの具体的法律関係発生の前提となる組合員たる地位ないし資格の得喪の効力発生については前記の法第一五条及び第一六条の規定が存するだけで、右各法条に定める資格の得喪が生じた場合、その得喪の効力発生を制限する内容を定める規定は何ら存在しないのである。

以上のような法における規定の仕組み及び法第一五、一六条の文言並びに後記のような厚生年金保険法(昭和二九年法律第一一五号)及び健康保険法(大正一一年法律第七〇号、ただし、昭和二九年法律第一一五号による改正後のもの)等の社会保険法規において採用されている被保険者資格の得喪に関する確認の規定の不存在等からすると、法第一五条は、法第一四条に定める組合員対象者が教職員等になることによつて、組合員の資格を取得するとともに当然に、他に何らの行為を要することなく、私立学校教職員共済組合、組合員及び学校法人等の三者間に前記のような掛金の納付及び徴収等の法所定の具体的法律関係が生ずるものと解するのが相当である。

(二)  この点につき被告らは、法第一五条は教職員等になることによつて当然に具体的法律関係が生ずる旨を定めているのではなく、被告組合の組合員資格取得の確認という行政処分により初めて前記三者間の法律関係が具体化するもので、それまでは潜在的法律関係にすぎないものと解すべきであると主張するので検討してみるに、前記の争いない事実によれば、組合員の資格取得の手続は、学校法人等が新たに教職員等を採用した場合には一〇日以内に資格取得報告書を被告組合に提出し、被告組合はこれを確認し、その旨の資格取得確認通知書を学校法人等に送付するとともに組合員証を当該組合員に交付して行なわれているところ、右のような確認により始めて法律関係が具体化するものとすれば、組合員にとつては、組合員資格の取得に関する紛争を右確認処分を争うことにより早期に確定できる利点があるし、被告組合にとつても、組合員の把握が可能となり掛金徴収もれや不正受給の防止を図り得るなどの合理的側面を有していることは明らかである。そして、法が第三六条において「組合員の資格若しくは給付に関する決定」を審査請求の対象とする旨規定していることを勘案すると、法も組合員資格取得の効力発生を被告組合の行なう確認という行政処分にかからしめているものとみえなくもない。

しかし、このような資格取得の効力を生ぜしめる確認の制度が社会保険立法に採用されたのは、昭和二九年法律第一一五号によつて全部改正された厚生年金保険法(第一八条)及び右法律第一一五号の附則第二九条によつて改正された健康保険法(第二一条ノ二)からであり、その立法理由は、従来は被保険者資格の取得につき何らの行政処分も行なわれなかつたため、資格取得に関する紛争は保険給付に関する処分をめぐる紛争に包含されて争われざるを得ないところ、資格取得時と保険給付に関する処分時とは通常時間的に相当隔たつていることから、被保険者の資格取得事実の立証が困難となり、不利益を生じやすいため、資格取得につき確認という行政処分を介在させ、これに対する争訟提起の途を開くことにより、資格取得に関する紛争を早期に確定し、前記の不利益を是正することにあつた。その後、右制度は昭和二九年法律第一一六号によつて改正された船員保険法(第一九条ノ二)にもとり入れられているが、これらの社会保険立法においても右確認の制度が採用される以前においては、各法律所定の使用関係の発生により被保険者資格が生じ、直ちに具体的法律関係が生ずるものと解されており、これらの立法の経緯及び改正の理由からすると、確認の制度を採用するか否かは資格取得に関する紛争を保険給付をめぐる紛争と切り離して独立の争訟の対象とすべきか否かなどの立法政策の問題というべきであり、被告らがいうように社会保険一般の通則であるとまで断定することはできない。

そこで、進んで共済組合関係の立法についてみるに、共済組合立法で明文をもつて確認の制度を採用しているものは、昭和三三年四月二八日法律第九九号をもつて制定された農林漁業団体職員共済組合法(第一六条第二項)だけであり、私立学校教職員共済組合法が準拠した旧国家公務員共済組合法(昭和二三年法律第六九号)及び前記の農林漁業団体職員共済組合法が制定された直後の昭和三三年五月一日法律第一二八号をもつて全部改正された現行国家公務員共済組合法においても、また、昭和三七年法律第一五二号をもつて制定された地方公務員等共済組合法においても、組合員資格の得喪に関する確認の規定は設けられていないのである。

以上のような事実に照らせば、被保険者ないし組合員資格の得喪に関する確認の制度の採否は立法政策の問題であるところ、右制度の採否をめぐる各種社会保険立法の制定の経緯からすると、私立学校教職員共済組合法において、右制度を採用しないことの当否はさて措き、法に明文の規定を欠く以上、法が確認の制度を当然の前提としているものと解することはできないし、また、同様に前記の厚生年金保険法等の確認に関する規定を準用ないし類推適用することにも困難が存するものというべきである。

なお、審査請求に関する法第三六条が「資格若しくは給付に関する決定」につき審査請求を認めている点についてみるに、右の「資格………に関する決定」がいかなる決定を対象としているかは法文上明瞭ではなく、右規定は、法制定当時は「給付に関する決定」と定められていたところ、昭和三三年五月一日法律第一二八号によつて全部改正された国家公務員共済組合法附則第二八条により前記のように「資格………に関する決定」が審査請求の対象に含まれるものとして改正された(右改正後の国家公務員共済組合法の審査請求に関する第一〇三条第一項と改正前の旧国家公務員共済組合法の審査請求に関する第七一条第一項との間にも右と同様の関係がある。)ものであるが、他方、右の改正時において、組合員資格の得喪に関する法第一五、一六条は従前のままであるし、これまで説示したところからも明らかなように、確認の規定が導入されたものではないのである(国家公務員共済組合法も同様である。)。

従つて、法第三六条の「資格………に関する決定」が当初の学校法人等の資格取得報告書に対する被告組合のする確認を意味すると解するとしても、だからといつて組合員資格の得喪が確認によつて効力を生ずるということには結びつかないのである。

(三)  そこで次に、原告らは真実の組合員資格取得年月日と被告組合によつて確認された組合員資格取得年月日とが相違する場合には、法第一四、一五条から原告ら組合員に右年月日訂正申出権が生ずる旨主張するので検討するに、既に説示したように、法第一五条は或る者が法第一四条に規定する教職員等(ただし、同条第一項第一号ないし第三号該当者を除く。)になつたという客観的事実の発生により組合員資格を取得するとともに法所定の具体的法律関係が生ずるのであつて、被告組合の行なう資格取得の確認によつてこれらの効果が生ずるものではないと解すべきであるから、被告組合が確認した資格取得年月日が教職員等になつたという客観的事実の生じた日と相違していたとしても、このことは何ら当該組合員の法律上の地位ないし資格に影響を及ぼすものではない。また、このような場合に当該組合員に資格取得年月日訂正申出権なるものを認めた法律上の根拠も存しないから、かかる申出を拒否したとしても組合員たる法律上の地位に何ら影響を及ぼすものではなく、従つて、本件通知を行政処分とみることはできないものといわねばならない。

この点につき原告らは、被告組合においては過去に組合員の資格取得年月日の訂正をした事実があるし、その発行する「私学共済事務の手引」中にも右訂正の方法に関する記載が存するから、これらの事実は原告ら主張の訂正申出権の存在を裏付けている旨主張し、被告らにおいても右の事実については明らかに争わないところであるが、前記のように被告組合の行なう組合員資格取得の確認は、被告組合における事務取扱上の事実上の措置に過ぎないものというべきであるから、右の事実は事務取扱上の措置を是正した事実及び是正方法を定めたものと解され、右事実があるからといつて前記(一)項に述べた解釈を左右するものではない。

次に、原告らは、本件各申出は健康保険法第二一条ノ二第二項や厚生年金保険法第三一条が定める確認の請求に当たるもので、右確認の請求は社会保険法一般の通則から認められるべきものと主張するので、検討するに、右各条項が定める確認の請求とは、前項(二)に説示した昭和二九年法律第一一五号によつて全部改正された厚生年金保険法及び同法律附則第二九条によつて改正された健康保険法において被保険者資格の得喪に関し確認の規定が取り入れられたことに対応して採用されたものであるが、既に述べたように右各保険法における資格の得喪に関する確認とは、法所定の事実が生ずることにより当然に生じる被保険者資格の得喪に法的効力を生ぜしめる行政処分であり、右処分があつて始めて保険当事者間に具体的法律関係が生ずるものとされているため、被保険者資格の得喪を生じたにもかかわらず、確認処分が行なわれないことにより具体的法律関係が生じない場合を解消するために被保険者側から右確認処分を請求する権利を認めたものである。

以上のように、前記の各法律が定める確認の請求は、被保険者資格得喪の効力を確認という行政処分にかからしめている前提のもとに設けられている法制度であつて、法が定めるように資格取得事実の発生により当然に何らの行為を要することなく具体的法律関係が生ずる法制度のもとでは、当然に前記のような確認の請求を取り入れるべきものとはいえない。

従つて、この点に関する原告らの主張は採用できない。

2  以上の次第であるから、本件通知は、行政処分ではなく、従つて、原告らの被告組合に対し本件通知の取消しを求める主位的請求部分は取消しの対象を欠くものとして不適法であるし、また、前記のように、被告組合が行なつている資格取得の確認行為が法第三六条第一項の「資格………に関する決定」に当たるものとし、法は組合員に右確認行為の実際上の重要性に鑑み審査請求という手続的保障を与えているものと解する余地があるとしても、同条第二項が審査請求期間を定めている趣旨からすると、確認された資格取得年月日に不服がある者は当該確認それ自体を争うべきであり、右以外に被告組合に対し、右年月日の訂正申出を行ない、これに対する回答を前記の「資格………に関する決定」に当たるとして審査請求手続で争うことは許されないものと解すべきであるから、結局、その余の原告らの本件通知の取消しを求める審査請求を不適法として却下した本件裁決に右原告らの主張する違法はない。

三  被告組合に対する予備的請求について

1  まず、原告らのうち別表二記載の者を除くその余の原告ら(以下、この項では右その余の原告らを単に「原告ら」と呼ぶ。)の予備的請求につき検討するに、要するに原告らの主張は、組合員期間の長短は法が定める長期給付、すなわち、退職給付、遺族給付及び廃疾給付の給付額のみならず、給付内容にも影響するものであるところ、原告らと被告組合との間には組合員資格取得年月日につき争いがあるから原告らが被告組合の組合員資格を取得した日がいつであるかを確認することにより、長期給付をめぐる紛争を抜本的に解決し、これを未然に防止することができるというにある。

そこで検討するに、まず原告らの予備的請求の趣旨についてみると、右請求の趣旨は、原告らが過去の一定の日に被告組合の組合員資格を取得したという過去の事実ないし法律関係の確認を求めるものであるところ、かかる請求の趣旨が確認訴訟の対象としての適格を有し得るかについては問題の存するところであるが、この点はさて措き、原告ら主張のような確認の利益の存在すなわち長期給付をめぐる紛争の抜本的解決に資するとの点についても以下に述べるようにこれを肯定することはできないのである。

まず、被告組合が行なう長期給付について検討してみるに、右の長期給付とは法第二五条(昭和三三年法律第一二八号国家公務員共済組合法附則第二八条による改正後のもの)により準用される右国家公務員共済組合法の規定による退職給付(退職年金、減額退職年金、通算退職年金等)、廃疾給付(廃疾年金、廃疾一時金)及び遺族給付(遺族年金、死亡一時金等)があるところ、これらのほとんどが法所定の方法により算定した組合員期間を給付内容決定の一要素としていることは明らかである。

しかし、前記の法第二五条によつて準用される国家公務員共済組合法第四一条第一項によれば、長期給付の受給権は、給付事由が発生したことを理由とする請求に基づき被告組合が給付決定をして始めて権利が具体化するものであるところ、原告らが現在給付決定を得ていないことはその主張自体から明らかであるから、原告らは、現在具体的給付請求権を有するものではなく、従つて、原告らと被告組合との間には長期給付をめぐる具体的紛争が現存するものということはできない。また、将来における長期給付請求権の取得についても、右取得に必要な組合員期間の要件をみたさずに終る場合もあり得るし、また、例えば、前記の法第二五条が準用する国家公務員共済組合法第九四条第一項によれば、給付を受けるべき者が故意の犯罪行為等により保険事故を生じさせた場合には廃疾、死亡等に係る給付を行なわない旨その他の給付制限規定が定められていることをも併せ考えれば、原告らが将来必ず長期給付請求権を取得し得るものと断定することはできない。また、仮に将来長期給付請求権を取得し得たとしても、いかなる種類の長期給付を受け得るかは現時点においては未確定といわねばならないところ、法は給付額算定の基礎となる組合員期間につき例えば退職年金については一年を単位として計算するものとしている(前記第二五条により準用される国家公務員共済組合法第七六条第二項)のに対し、通算退職年金については一月を単位として計算するものとしている(右国家公務員共済組合法第七九条の二第三項)ため、長期給付の種類及び内容が定まらない現時点においても組合員期間ひいてはいつ教職員等となつたかを確定してみても、長期給付をめぐる紛争の解決に必ず役立つという保証はないといわざるを得ない。さらには、原告らが将来長期給付を受け得るに至つたとしても、右時点における給付額等の決定の基礎となる組合員期間算定の方法自体が現行のままであるという保障もないのである。

以上のようなことからすれば、仮に前記のような原告らの組合員資格取得年月日を確認してみても、将来原告らに前記のような給付制限事由が生ずれば右確認は無意味に帰するし、また、給付事由が生じたとしても右確認が給付内容をめぐる紛争の実効的解決に必ず役立つという保障は存しないものといわねばならない。

一方、法は給付決定をめぐる紛争については審査請求の途を定めている(法第三六条)し、なお不服の場合には行政訴訟を提起して直接かつ抜本的な解決を図り得るのであるから、原告らのような請求を認めねば保護を受ける機会がなくなるというものでもない。

そうすると、被告組合との間において、原告らが現に組合員であることに争いがなく、また、原告ら主張の年月日に組合員資格を取得したことを前提とする具体的紛争の存しない以上、本件予備的請求は、確認の利益を欠くものといわねばならない。

2  別表二記載の原告らの予備的請求について検討するに、右原告らが既に被告組合から同表記載のような給付の決定を受けていることは当事者間に争いがない。

右事実によれば、右原告らは、組合員資格取得年月日の確認に誤りがあることを理由に給付の種類あるいは額の変更を求めるためには前記のように既になされた給付決定を争えば足り、これに対する審査請求ないし行政訴訟を提起することにより直接かつ効果的な解決を図り得るのであるから、前記のような予備的請求は、確認の利益を欠くものといわねばならない。

この点につき右原告らは、被告組合に対し給付事由発生以前から本件各申出をし、さらに審査請求及び本訴提起と一貫して原告ら主張の採用年月日を主張してきたのであるから、長期給付を受けたからといつて原告らの右主張を放棄したものではなく、確認の利益は存する旨主張するが、前判示したところから明らかなように、原告らの主張は理由がない。

3  なお、付言するのに、組合員資格については、法定の要件をみたした時に当然に取得するとしても、実際の取得の時期よりも遅れた時期に組合員資格を取得したものとして届出がされ、相当期間が経過した後になつて、実際の取得時期が届出時期より遡る旨主張し、これによる組合員期間に基づいて長期給付を受ける権利がある旨主張することが無限定に許されるとすることには疑問がある。私立学校教職員共済組合法の一般法である厚生年金保険法においては、保険料を徴収する権利が時効によつて消滅したときは、当該保険料に係る被保険者であつた期間に基づく保険給付は、原則として行なわないこととされている(同法第七五条第一項)。これは、相互扶助、相互救済の観点から構成される社会保険の本質から認められる措置とされるのであるが、法が給付に関する事項についておおむね準拠している国家公務員共済組合法には、そのような規定はなく、僅かに給与からの掛金相当額の控除が行なわれなかつた場合の給付金からの控除(同法第四六条第一項)、掛金相当額の組合への納付がない場合の給付の一部制限(同法第九六条)についての規定があるだけである。しかし、国家公務員共済組合の場合においては、厚生年金保険における保険者と被保険者を使用する事業主との関係とは異なり、使用者である国が実質的に共済事業を行なつている者でもあるという関係にある。従つて職員が組合員資格を取得しながらそのことが直ちに組合に明らかにならないということは、通常考えられないところであり、従つて、組合員資格について確認により法的効力が生ずるとする必要性も少ないし、そもそも掛金の控除及び組合への払込みがされない事態は、通常は生ずる筈がないのである。しかし、私立学校教職員共済組合の場合においては、使用主である学校法人等と共済事業を行なう被告組合とは別個の存在であり、その関係は、厚生年金保険における保険者と使用者たる事業主との関係に比せられるものである。従つて、被告組合の場合には、組合員資格の取得時期や標準給与額は、学校法人等からの届出によつて始めてこれを了知できるのであつて、それが事実と符合しない場合にも、容易にこれを発見、是正できる立場にはない。一方組合員の側では、交付された組合員証の記載によつて届出された組合員資格の取得時期を知り得るのであるから、それが事実と符合しない場合には、前述したように是正の方策をとることも可能な筈である。組合員の側でこのような是正策をとらないまま相当の期間が経過した後になつて、実際の組合員資格取得の時期が遡及することを主張し、これに基づく給付を請求することが無制限に許されるとするならば、遡及期間中の国及び都道府県の補助やその間の給付財源の運用利益を回復することが不可能ないし極めて困難であるのみならず、掛金自体も時効の関係で確実に遡及徴収することができる法的保証はないのであるから、組合の財政に対し少なからぬ影響を与える結果となろう。ことに本件においては、原告大学に勤務するその余の原告ら三三名が、最も長い者においては一三年間にわたつて遡及することを主張しているのであるし、さらに、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証並びに証人竹田一民の証言によれば、被告組合においては、組合員資格がありながら所定の正しい届出がされていない者が多数の学校法人等につき二、〇〇〇名ないし三、〇〇〇名位も存在するとされていることが認められる。かくては、被告組合の財政は根底から覆えされてしまうことは明らかである。もちろん、この点につき最も責任があるのは、原告大学を含めた学校法人等であつて、届出が遅延した実態の如何によつては組合員に対する法的責任も問題となり得るであろう。しかしながら、組合員個人としても、前述のとおり組合員証の交付の有無ないし組合員証に記載されている資格取得年月日によつて遅延の事実を知る機会がないわけではないこと、もし無限定な遡及訂正を認めれば組合財政の破綻を招き、正当な届出及び掛金の支払いをしている他の組合員が不当な不利益を課されることとなつて、相互扶助の精神に基づく共済制度の趣旨に反することからすると、その余の原告らが原告ら主張の時期に組合員資格を取得したとしても、当然にそれに基づく組合員期間によつて長期給付を受け得るとすることには疑問があるのであつて、この点からしても原告らの主張する確認の利益を直ちに肯定することはできないのである。

四  以上の次第であるから、本件訴えのうち原告らの被告組合に対する主位的請求及び予備的請求に関する部分はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、その余の原告らの被告審査会に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田耕三 原健三郎 田中信義)

別表一、二〈省略〉

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